『モーパッサン短編集Ⅰ』(著:モーパッサン、訳:青柳瑞穂)
本読みました。
訳者である青柳瑞穂氏によるあとがきに、非常に的確なモーパッサン評がありました。
彼の師フローベールは、読書と思索に、己の資源を求めていたのに反し、モーパッサンは生活そのもののなかに求め、生活の沼から手づかみに泥をすくいあげて、それをそのまま原稿用紙の上にぶちまけたという感じだ。
これが非常に言い得て妙で、作品の中には日常風景のただのスケッチにとどまるような、いわゆる「オチがない系」のものが割とあります。道で紐を拾ったことで泥棒と間違えられ、それが名誉と意地の騒動に発展する『紐』、資産家の独身老人の遺産を目当てに、その家に娘をバイトにやる『木靴』などはまさにそうで、それ単発で読んでも意味が通りにくいです。その意味ですべての短編がよく練られていない、荒削りの印象があるのですが、そんな日常の風景の中にふいに感動するような自然の描写や登場人物の心の動きが現れ、これが読み手に取って非常な感動をもたらします。自然体な作風ゆえに、その美が全くの偶然に、ありのままの姿で(作者が意図していたかどうかは定かではありませんが)描写されていると読み手は感じます。
荒削りな作品の中に不意に現れる美
特に面白かった作品は、『アマブルじいさん』、『悲恋』、『椅子なおしの女』の三篇です。
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『ミノタウロスの皿』藤子・F・不二雄著
本読みました。
ドラえもんで知られる藤子・F・不二雄氏の短編集(漫画)です。異世界や時間旅行などが頻出し、SF的な作品が多いです。SFを舞台演出や小道具として使って何を書くのかというと、その中でも実際の現代社会と変わらずあり続ける人間のエゴやおたがいが分かり合えない様で、ブラックユーモアやシニカルな笑いにあふれた作品になっています。キャラクターがドラえもんやオバQ(こちらは本作の中に後日譚が出てきますが)の、あのコミカルでかわいらしいデザインにもかかわらず、しかし随所で驚くほど怒りや悲しみ、憎しみと言ったネガティブな方面で表情豊かで、そのギャップが本作の毒を効果的に演出していて、また作者の漫画家としての技術の高さが伺えます。
特に面白かったのは、『じじぬき』、『ミノタウロスの皿』、『劇画・オバQ』の三篇です。
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