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『佐々木の場合』志賀直哉著

本読みました。

『佐々木の場合』志賀直哉

 

参考にしたサイト↓

志賀直哉「佐々木の場合」-漱石への献辞の意味-

 

以下感想です。

■あらすじ

■作品が書かれた背景

■遅すぎる求婚

■志賀に似た登場人物

--『佐々木の場合』まとめ--

 

■あらすじ

 

士官学校に入学するための準備をしている書生「佐々木」が、家の使用人「富」と恋に落ち、やがて別れ、しばらくしてのち、世俗的な成功を手に入れた佐々木が富に求婚を行ったところ、にべもなく断られるという話です。佐々木はエゴイスティックな性格で、富と交際している間も、富をガミガミ怒鳴って、従順なだけが取り柄なのだと考えていました。佐々木は書生をしていた家を出ることになるのですが、それも自分と富の関係のせいで起こした不祥事の後始末を行う必要性を感じながら、自分の士官としての将来が危うくなることを恐れ、逃げ出してしまいます。しばらくしてのち富に求婚するときも、世俗的な幸福を有している自分が世俗的な不幸に見舞われている冨を救ってやるのだという気持ちです。

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エゴイストな佐々木が求婚を断られる話

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■作品が書かれた背景

 

本作には、冒頭に「亡き夏目先生に捧ぐ」との献辞が付されています。これは、志賀がお世話になり敬愛していた夏目漱石に小説の執筆を依頼されたとき、自身の執筆活動がうまくいかず納得のいくものが書けなかったことがあり、そうして執筆が延び延びになっている間に夏目漱石がなくなってしまったという事情があります。志賀は夏目漱石の講義を大学で聞き、漱石著作についても好意的な書評を書き、また漱石からも自身の著作に好意的な書評をもらい、志賀は漱石に敬愛の情を抱いていたことがうかがわれます。

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敬愛する夏目漱石の依頼にこたえられないまま死別してしまった

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■遅すぎる求婚

 

本作の佐々木から冨に対する遅すぎる求婚は、志賀が夏目の依頼にこたえる内容の小説を夏目の死後にしか書けなかったことを示しています。その求婚の遅延の理由が、佐々木の場合「自身の将来を優先する」エゴイスティックなもので、志賀の場合も執筆遅延の原因は自身の創作活動における波という個人的な理由とこの点も符合しており、志賀は執筆遅延に対する罪悪感を感じていたことがわかります。

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作中の遅すぎる求婚は、夏目の依頼にこたえられなかったことの後悔の現れ

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■志賀に似た登場人物

 

本作の佐々木、および佐々木の独白を聞く「自分」は、志賀直哉自身によく似た登場人物ですが、登場人物としての輪郭がはっきりしているのはもちろん佐々木のほうです。本書はそのほとんどが佐々木の独白という形で構成されていますから当然です。志賀は佐々木と同じでエゴイスティックでありながら、夏目漱石を敬愛することからもわかる通り道徳的潔癖家でした。自身のエゴイズムを強く反映した佐々木というキャラクターが、道義を体現するキャラクター「富」に拒絶されるという本書の構図は、自分自身の特徴と自分の持つ理想の「相剋(互いに相手に勝とうと争うこと)」の様子であり、この内的な闘争も本書のモチーフと言えます。

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エゴイスティックな自分と、道徳的な理想の自分の闘争

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

--『佐々木の場合』まとめ--

 

エゴイスティックな自分と、道徳的な理想の自分の闘争というのは非常に共感できます。志賀直哉は本書が書かれた中期からそののちの後期の活動において、「闘争から和解へ、動から静へ」自身の執筆のスタンスを変遷させていくそうなのですが、志賀直哉の作品の中で、この内的な闘争の決着やそのヒントが示されているのかもしれないとおもいます。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■関連作品

 

本作は志賀直哉の中期の作品を集めた短編集『小僧の神様・城崎にて』に収録されています。

 

 

志賀直哉の短編集としては、前期の作品を集めた『小清兵衛と瓢箪・網走まで 』、

 

 

志賀直哉の短編集としては、後期の作品を集めた『灰色の月/万暦赤絵 』があります。