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『短編工場』集英社文庫編集部編(2/2)

本の感想

本読みました。

『短編工場』集英社文庫編集部編

前記事の続きです。前記事↓

『短編工場』集英社文庫編集部編(1/2) - H * O * N

以下感想です。(2/2)

■全体

■あらすじ

■ここが青山_奥田英朗

■ふたりの名前_石田衣良

■しんちゃんの自転車_萩原浩

■川崎船_熊谷達也

--『短編工場』まとめ--

 


■しんちゃんの自転車_萩原浩

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死んだ友人「しんちゃん」が主人公「私」の家に遊びに来る話です。ふたりは真夜中に家を抜け出して、桑畑の中にある墓地を抜けて、人がいなくなって荒れ果てた神社の中にあるおたま池に行きます。作品は、非日常の中目の当たりにした光景を、感じた恐怖とともに語る幼い私の舌足らずな語り口で進みます。おそなえのおまんじゅうでお手玉をする死んだ坂田のおばあ、上を向いた拍子に首が戻らなくなるしんちゃん、そういった演出と、幼い私の語り口が相まって、作品は夢と現の境界線が曖昧なような、幻想的な印象です。

 

ふたりの子供は、怖さを紛らわすために特撮ヒーローの主題歌をふたりで歌ってみたり、出るとうわさの祠の中に何もないことを発見して「なぁんだ」と安堵したりする一方、しんちゃんが死んでいるとわかった後の描写は、「左の耳が何かにかじられたようになくなっている」、「着物の襟から這い出して来た蛆虫」、「あぜ道で見かける干からびたカエルのような臭い」とおどろおどろしい。こういう読者に対する印象の揺さぶりが、上記の幻想的な印象を、似たような世界観を持つ作品のそれと一線を画する独特のものにしています。

 

しんちゃんは、死ぬ間際に見た三途の川の夢で、私を見たといいます。橋を渡りきらずに引き返した私を「呼べばよかったな」といい、「ねぇ、一人で寂しくない」という私の問いかけには答えず、夜空を見上げます。空を見上げるのは難しいことを考えるときのしんちゃんの癖で、このことからここでしんちゃんは、私を連れていこうかどうか迷っているのだと思います。結局しんちゃんは私を家まで送ります。自転車に乗りながら「なぁ、明日はどこ行く」と無邪気に問いかけるしんちゃんの真意を考えると、涙を禁じ得ません。胸騒ぎがするような幻想的な印象と、おそらくは淡い恋心も含むであろう幼い友情の美しさに心打たれる傑作だと思います。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


■川崎船_熊谷達也

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若い猟師「栄三郎」の精神的な成長の話です。栄三郎は自宅の漁船の機械化をしきりに勧めますが、栄三郎の父「栄治」は機械化を頑なに拒みます。わからずやな父に嫌気が差していたとき、栄治が怪我で重要なタラ漁に怪我で出れなくなり、栄三郎が船頭を務めることになります。その漁を通して自身の至らなさと漁師としての父の存在の大きさを認識し、不安の中出たタラ漁で他の漁師に一人前と認められ、成長を実感します。漁から帰って、栄三郎は栄治が漁船の機械化を頑なに拒む理由、博打と疑われながらもしばしば理由を告げずに青森へ訪ねる意図を知らされます。タラ漁を通しての栄三郎の成長、栄治の子を思う気持ちに感動する爽快な話です。添え物のような幼馴染「美樹」との恋といい、栄治の意図といい、演歌的な世界観の定型美とでもいうような渋さがあります。

 

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--『短編工場』まとめ--

 

上で紹介したもの以外だと、金鵄のもとに(浅田次郎著)、陽だまりの詩(乙一著)、約束(村山由佳著)も面白かったです。上記のように感動する話、暖かい話がいくつも収録されている好短編集です。外れが少ないのでオススメです。

 

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