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『短編工場』集英社文庫編集部編(1/2)

本読みました。

『短編工場』集英社文庫編集部編

 

以下感想です。(1/2)

■全体

■あらすじ

■ここが青山_奥田英朗

■ふたりの名前_石田衣良

■しんちゃんの自転車_萩原浩

■川崎船_熊谷達也

--『短編工場』まとめ--

 

 


■全体

豪華な作家陣で構成されるアンソロジーです。読みたいと思いつつもきっかけがない、気になる作家さんの作品を読むきっかけとしてちょうど良い本でした。ただ既存の単行本から無作為に抜き出している感が強く、ノンコンセプトで、作品によっては単独で読んでも意味が伝わりにくいものもあります。特によかったのは、萩原浩氏のしんちゃんの自転車という作品でした。ちなみに桜庭一樹氏の「じごくゆきっ」は割と期待して読んだのですが、それほどでもなかったです。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


■ここが青山_奥田英朗

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出世欲がなく、凝った料理に熱中するなど芸術家気質で主夫向きのサラリーマン「裕輔」と、外交的で男勝りなOL向きの専業主婦「厚子」が、夫の会社倒産を機に役割を入れ替える話です。ふたりとも機嫌よく日々を過ごすも、周囲の人の心配や激励を受け、周囲の反応に共感できずに、周囲から見れば大事件である失業という問題を軽く受け止める裕輔の様子を通して、彼が思いがけずぶつかった「悪気のない」ジェンダーに気付く様を描きます。

 

タイトル「ここが青山」は、「ここが青山(セイザン)」と読み、「人間(ジンカン)いたるところ青山(セイザン)あり」ということわざから来ています。ジンカンは世間、セイザンは墓場のことで、世間にはどこにでも自分の骨をうずめられる場所があるという意味です。裕輔はこれの正しい読み方を知っていますが、裕輔を心配し激励する周囲の人々は、(元教員の実父を除いて)これを正しく読めず、裕輔の現在を向かい風であると勝手に判断し、社会復帰が「セイザン」である前提の下、裕輔に間違った訓示を行います。裕輔は専業主夫という生き方にセイザンを見出しましたが、それを理解できない周囲の人々を滑稽に描くうまみのある描写だと思います。

 

作品の最後に、裕輔は翌日の息子のお弁当の具を考えながら、「ここが青山でもいいと思った」と思います。周囲の常識人たちのおかしみと、裕輔の前向きな決意を見て、世の理不尽を少し許せるような気持ちになる、暖かい短編だと思います。

 

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■ふたりの名前_石田衣良

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自分の持ち物に名前を書き、所有権を明らかにすることでうまくやってきたカップルの「朝世」「俊樹」のふたりが、子猫を引き取る話です。まだ名前のない子猫が病気にかかり、持ち物に書く以外の名前の役割に二人が気づく様が感動的です。


名前ってぼくたちがやってるみたいに誰のものか現すだけじゃないんだ。何度も心の中で呼んでみたり、歌うように繰り返したり、誰にも見られないように書いたりする。

病気の手術のあとふたりは子猫の名前を考え、子猫が退院するまでその名前はふたりの秘密になる、というペット愛にあふれた作品だと思います。愛するペットがいる人にはたまらない話です。

 

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感想(2/2)に続く