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『魔女と呼ばれた少女』に寄せて ~感動の分類~

『魔女と呼ばれた少女』というのは、映画のタイトルで、簡単に言うと内戦が続くアフリカのどっかの国で、ひどい目に遭う少女の話です。某サイトの評価が非常に高かったので観たのですが、自分的には微妙でした。その所感に至った理由をあれこれ考えるうちに、思うところあり、筆を執った次第です。

 

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『蠅の王』ゴールディング著、平井正穂訳

無人島に不時着した子供たちが、集団生活を企図しますが破綻を来たし、暴力と破壊の中に飲み込まれていく話です。成行で指導者に選ばれたラーフが、救助のために理性的に秩序立って集団を統率しようとしますが、集団は瓦解し、当初の目的が完全に失われるまでを描いています。子供たちの集団における様々な概念を象徴的に表したアイテムが多く出てきます。

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『ナイン・ストーリーズ』サリンジャー著、野崎孝訳

サリンジャーについては、実は以前『フラニーとゾーイ―』を読もうとして挫折した苦い経験がありまして、この度短編集なら何とかなるかと思い今作を手に取った次第です。『フラニーとゾーイ―』については、一見して必要性がわからないような冗長なワードサラダ的記述がキツかったんですが、こんどの短編集も最初の一つ二つの時点でその傾向があり絶望しつつ、それでも何とか短編集ということで読み進めたところ、『笑い男』が自分的に激ササリでした。最近読んだ本の中では一番泣いたと思います。それに続く『エズミに捧ぐ―――愛と汚辱のうちに』も、少女エズミの愛らしさとその後の展開の汚辱のコントラストが圧倒的切なさを見せる名作で、さらに『ド・ドーミエ=スミスの青の時代』は、軽い読み口のコメディといった風情で、サリンジャーという作家の創作の幅に圧倒されることしきりでした。

 

よかったのは、

笑い男

『エズミに捧ぐ―――愛と汚辱のうちに』

『ド・ドーミエ=スミスの青の時代』

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『午後の曳航』三島由紀夫著

■読み終わった最初の印象

は、

めちゃくちゃカッコイイレトリックで書かれた悪趣味な前衛芸術

でした。普段海外の文豪の著作の訳書をよく読むので、文豪が自国語で書いた文の威力というのが強烈で非常に印象的でした。

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『イソップ寓話集』中務哲郎訳

子供の頃童話の本でイソップの名前を知って、その印象が強かったので、イソップ=童話作家のようなイメージだったのですが、本作を読んでひっくり返りました。男女の情事の話や、動物の話と見せかけた都市国家間のマキャベリズムの話などがあって、またイソップ自体レイシストな側面があり、思っていたより過激でした。印象的だった寓話を引用します。

 

■共感

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『とぶ教室』ケストナー著、丘沢静也訳

クリスマス前のギムナジウムを舞台に、そこの生徒たちの戦いと友情を描いた作品です。

訳者解説に、

ケストナーは多くの読者に愛され(たから?)、多くの批評家や研究者からうとんじられた。現在もそうだ。読めばわかるから、研究者や批評家の出る幕があまりない。

とありますが、その通りで、読めばわかる作品でした。

 

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『異邦人』カミュ著、窪田啓作訳

主人公のムルソーが、ふとしたきっかけで人を殺し、死刑を宣告される話です。ムルソーは、普通の社会生活を営んでいるように見えます。経済的な事情から親を養老院に入れていること、職場で知り合った女性と恋に落ちたこと、少しアウトローな友人と近所づきあいしていること、といった個々の事情は、それ単体では何ら違法性がなく、取るに足らないことです。しかしムルソーが殺人を犯した途端、それらのことがまるで原因であるかのように司法から糾弾を受けます。つまり、親を施設に入れたことや、親の葬式のすぐ後に恋人と海に行ったことをもって彼の倫理観の欠如を、アウトローな友人の存在をもって彼の反社会性を、説明しようとします。それらに反駁して、自分が本当に罪を犯した理由は、

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