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『我が家の問題』奥田英朗著

本読みました。

『我が家の問題』奥田英朗

 

奥田氏のこの家族小説というテイストの短編集では、前作『家日和』が素晴らしい出来だったことが記憶に新しいです。今作は前作ほどではありませんが、やはり巧まぬ味わい深さがあって、しみじみ読める素晴らしい作品です。特に素晴らしかった作品は、『夫とUFO』、『里帰り』、『妻とマラソン』の三本です。

 

 

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■『夫とUFO』

 

仕事で問題を抱える夫が精神的負担からUFOを見るようになり、妻がそれを心配し夫を救出しようとする話です。最初夫がUFOを見るようになったと何の気なしに告白し、妻が不安になって気を揉む様がユーモラスに描かれます。夫のUFO関連の蔵書、怪しい団体へのコンタクトなど、妻が心配する要素がどんどん出てきますが、テイストはあくまでコミカルです。しかし面白おかしく描かれた夫の奇行には、実は精神的な負担というシリアスな原因があってそれを知った妻は夫を助けるために行動を起こします。時に訝り、怒り、夫の苦労を思い泣きながら、常に夫の身を案じる妻の一途な愛情が感動的です。

 

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常に夫の身を案じる妻の一途さに感動

 

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■『里帰り』

 

東京に住む夫婦が、長期休暇を使ってお互いの地元に帰るさまを描いた話です。最初二人は気を使って寛げないからと帰省を渋っていますが、実際にパートナーの親族とあってみると自分の地元にないカラーが逆に新鮮で好ましく感じるという、心温まる構成になっています。長期休暇の里帰りという日本人にとってはおなじみの習慣を題材に、自分の実家に来た自分の妻の気持ち、一年に二回しか娘に会えない義父の気持ちを慮る日本人的な遠慮深さをハートフルに描かれています。ほかの作品に比べて主張は少ないですが、全編ににじむ温かさが素晴らしい味わいです。

 

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窮屈な親戚付き合いが日本人的な遠慮の美徳の産物として捉え直されている

 

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■『妻とマラソン』

 

この作品は前作にも登場した、著者ご本人の家庭がモデルと思われる「大塚家」を舞台に、妻がマラソンに目覚め、大会への出場とそれにまつわる出来事の中で、妻が一時家族の中心となる話です。妻がマラソンにはまった背景には、ベストセラー作家になった夫に対する取り残されたような思いがあり、そんな妻を夫はなにもしてやれずただ思いやっているという、ある種の生活の実感が感じられる話です。そんなどうしようもない思いを抱えた妻が、一時的にではあれ家族の中で主役になって、けなげに頑張って走る姿と、その姿を温かく見守る夫のまなざしに確かな愛が感じられる作品です。

 

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悩みながらけなげに頑張る妻を見守る、実感のこもった愛のあるまなざし

 

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『妻とUFO』の作品にみられるように、奥田氏の作品は感動の契機になる状況のとらえ方が(実際はシリアスで困難な状況であるとしても)どこかコミカルで、出来事やそこから生じる感情にこだわりが弱くフラットな感じが解脱的であると思います。そんな世界観が、コミカルなストーリーが展開する絶好の舞台になり、軽く小気味いい読後感を生んでいると思います。

 

■関連する作品

 

紹介した作品はこちらです↓前作『家日和』もおすすめです。

 

  

 

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