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『ふたりの距離の概算』米澤穂信著

本読みました。

ふたりの距離の概算米澤穂信

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以下感想です。

■あらすじ

■みどころ

■5月快晴昼下がりの逍遥というシチュエーション

■ボーイッシュ褐色後輩というキャラクター

--『ふたりの距離の概算』まとめ--

 


■あらすじ

古典部シリーズ文庫本5冊目です。折木達古典部メンバーは高校2年生になり、後輩が古典部に仮入部しますが、謎の大部を遂げ、折木はその真相を推理する内容です。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


■みどころ

この作品は推理ものに分類されますが、私がこの作品の良さだと思うのは、作品の雰囲気です。推理のときの伏線回収はそのたび感嘆しますが、そこで著者と知恵比べするつもりはなく、繊細な感情のキャラクターと憂いを帯びたシナリオの雰囲気が好きで本シリーズを読んでいる読者は私だけではないのではないでしょうか。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


■5月快晴昼下がりの逍遥というシチュエーション

今回の話は、時期的には5月末で、折木たちの高校で開催されたマラソン大会の進行に合わせて、大会に参加する折木の視点でストーリーが展開されます。折木は真面目に走る気などさらさらなく、新入生の退部の問題を解決するために、今回の問題の渦中の人、下級生と問題を起こした同級生の千反田とコース付近の水梨神社に立ち寄ってみたり、退部した下級生の大日向とコースアウトして路地裏をうろうろした挙句、近所の団子屋で休憩したりします。5月快晴昼下がりというシチュエーションで、情景描写も下記の通り、静謐ながらも爽快な雰囲気が巧みに描写されています。


「境内には人の気配がない。何の鳥かわからないが、囀っているのが聞こえる」 「湧き水は冴えるほどに冷たく…」 「木造の家のベランダで、洗濯物が風に翻って…」 「結構な勢いで水が側溝を流れていく。ちろちろという音が耳に涼しい」 「あんまり青臭いのはいやだと思ってみたらしの方がいいと言ったが、よもぎの香りは胸がすくものだった。甘味が体に染みていく」

情景の美しさが、却って後述の大日向というキャラクターとの別離を印象的に切ないものにしています。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


■ボーイッシュ褐色後輩というキャラクター

大日向というキャラクターも本作の雰囲気を語る上で欠くことのできない要素です。掲題のような外見的特徴を持つ大日向は、社交的で男勝り、大雑把な性格だと連想されますし、その読者の予想を裏付けるように、先輩である折木におじけることなく話しかけ、古典部の先輩達を自身の知人が経営する喫茶店に誘ったりもします。しかし、千反田との些細なすれ違いから思い悩み、部活をやめるまでに思いつめてしまう彼女のいわば「後輩性」―――すなわち不安、心細さというような彼女の性質―――が本作のテーマであり、彼女というキャラクターの根幹なのです。この隠された後輩性は読者に非常に深い印象を与えますし、あえて自己の根本的な性質を隠してボーイッシュに大雑把に振舞っている大日向というキャラクターに血が通うようになっていると思います。そして繰り返しですが、このキャラクターとの別離が印象深いものになっているというわけです。

 

この本質的な部分を隠しているキャラクターは、他の作品にもしばしば見られる要素で、たとえば最近で言うと普段はお調子者で三枚目に振舞っているのに好きな男の子への愛に自身の命を賭した魔法少女まどか☆マギカの「美樹さやか」、乱暴な言葉遣いをしているのに怖がりで恥かしがり屋という性格のけいおんの「秋山澪」等が例として挙げられると思います(そんなに最近じゃない)。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

--『ふたりの距離の概算』まとめ--

雰囲気が魅力的なのはこのシリーズに関してはこの作品に限ったことではありません。前作の「遠まわりする雛」は生き雛祭という祝祭の中、青春のバラ色に折木の省エネ主義が脅かされ、このシリーズで天才的な推理の冴えを見せる「あの」折木が動揺する様子を描くことで、逆に青春、恋の素晴らしさを描いた作品でした。生き雛が桜の下を通るシーンはまことに祝祭的、幻想的で、その美しさはアニメ「氷菓」シリーズの該当の回にて余すところなく表現されているといえます。アニメシリーズは原作にアニメが追いついたことを持って終了したと聞きますが、最近米澤穂信氏の最新作「いまさら翼といわれても」が発売されて、今作「ふたりの距離の概算」とあわせれば、話数的にはアニメの続編が作成できる状態になったのではないかと思います。果たしてアニメ「氷菓」続編は出るのでしょうか。非常に気になります。

 

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