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『Butterflies』作詞・作曲:藤原基央

BUMP OF CHIKENの最新アルバム『Butterflies』を聞きました。当該アルバムは2016年2月発売で、ファンとしてはあるまじき1年遅れでのフォローアップなのですが、これが傑作でした。管理人はBUMP OF CHIKENのファンで、中学生のころから聞いているのですが、今回のアルバムは、ここ10年スパンで見ても最高の出来、というかファン歴がちょうど10年ぐらいなので管理人のファン史上最高と言ってよい出来だったと思います(最初にバンプを聞いた時の遥か昔の感動を今現在の感動と比較することは困難ですが)。

 

バンプっぽい最高にシャレオツな言い回しや10年前から進化し続けているサウンドは収録の全曲随所にちりばめられていましたが、特によかった作品は、『流星群』、『宝石になった日』、『You were here』の三曲です。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■流星群

 

おそらく意中の女性と、流星群を見ようとしたが曇っていて見えなかった日の印象を歌った歌です。この曲だけではなく最近のバンプの曲全体的に言えることですが、歌詞が異常なほどの発達を遂げていて、あまりにも印象的、抽象的で、非常に難解で聞き手によるかなり踏み込んだ解釈が必要になっています。油断していたら意味を読み取るどころか文節を区切ることすらも困難な有様で、片手間ででも聞こうものなら逆に何も印象に残らないということになってしまいます。

 

まあそんな総論は置いといて、曲のほうに戻りますが、曲のシチュエーションとしては若干ブルーになる状況ですね。せっかくのデートでメインイベントである流星群が見えないわけですから。しかし逆に主人公は、

 

こんな魔法みたいな夜に君と一緒でよかった

 

と思うわけです。後々まで聞いていくと、主人公にとって彼女とキッチリ会う時間をとることが重要だったということがわかります。彼女は「その笑顔の向こう側の方から泣き声が聴こえちゃった」「これほど愛しい声を醜いだなんて」等の描写から、取り繕っていても自己嫌悪で憂鬱な気分であることがわかり、主人公はそんな彼女の本音を「たとえ君を傷つけても見つけたかった」のです。そして終盤、「僕の見たかった全部が笑顔を越えて零れた」という描写からわかる通り、彼女が本音の発露であるところの涙を流すに至って、「うつむいた僕らの真上の隙間を光が流れた」シチュエイションが、映像作品のような圧倒的ドラマ性です。その印象が、曇り空で真っ暗な情景描写にもかかわらず、まるで満点の夜空で繰り広げられる流星群の極彩色を彷彿とさせ、主人公のいう「あの雲の向こう側の全部が君の中にあるんだよ」というフレーズの意図するところが相当な説得力を以て伝わってくる作品です。

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心情と情景のシンクロニシティによるドラマ性

 

この星を見ようとして失敗するというシチュエイションは、バンプのデビュー曲「天体観測」でも見られるもので、作者藤原基央氏のきわめて個人的な体験が彼の創作活動に多大な影響を与えていることが想像されます。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■宝石になった日

 

別れの寂しさを歌った曲です。曲中で別れた「君」は稲妻にたとえられます。「窓の外で世界を洗」うほどの夕立、「夜の空を切り裂いて僕を照らし出した稲妻」と、情景描写で「君」との出会いとともに過ごした時間の衝撃的で刹那的な印象がうたわれていて、曲調もそれに合わせてアップテンポでワクワクするようなサウンドです。

 

「君」と主人公の関係性は不明ですが、もしかすると「君」は死んだのかもしれません。曲中で何度も出てくる稲妻は、その刹那的に消えてしまう性質が強調されますし、「増えていく君の知らない世界 増えていく君を知らない世界」「君がいたことが宝石になった日」という言い回しはイカニモです。

 

サビでは直接的に寂しいという言葉が使われ、ストレートに別離を嘆く感情が表現されていますが、この表現方法も曲のコンセプトとよくマッチしていて、夕立のような激しい悲しみと、夕立の後の爽快感を彷彿とさせます。

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直接的で、激しく、爽快感あふれる別れの歌

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■You were here

 

この曲は、自分たちのライブについての曲のようです。ネットで調べたところ、この曲がライブの最後で演奏されるという点、曲中の紙吹雪を使用した演出が実際にライブに存在していることなどからそのように考えます。前情報なしにこの曲を聞いた時、「祭りの後」といった印象を受けました。ネットで答えを調べてあたらずも遠からずと思ったのですが、とにかく、曲の雰囲気が祭りの後の趣を的確に情緒深く表現していて、エネルギーにあふれた祝祭とセットになっている寂寥感の部分が非常にいい味を出していると思います。サビ以外のパートのメロディは穏やかで大騒ぎした後の心地よい疲労感と安心感や喧騒の後の静けさを思わせますし、曲中で際立つサビの部分の高音は祭りの残光のようです。

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祭りの後の騒ぎ疲れた安息を見事なまでに表現

 

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--『Butterflies』まとめ--

 

バンプも『K』や『ダンデライオン』を歌っていた初期のころは、「いい曲を作るミュージシャン」だったと思います。まだミュージシャンの範疇にちゃんと存在していたというか…。最近はそのころから彼らの中に微粒子レベルで存在していた、(藤原氏本人は雑誌のインタビューか何かで否定されていましたが)哲学や思想といった部分が前面に出てきているように思います。音楽だけでなく小説でも、果ては武道においても、表現や技術的な部分を極めたプレイヤーが哲学的なアプローチを採用する光景はしばしばみられますが、これは、ただ漫然と作品を量産しているのではなく、創作の中で真剣に考えながら活動していることが伺え、ファーストインプレッションでファンになったころとはまた別の惹かれ方をしている次第です。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

今回紹介した作品はこちらです。