本の感想詰め合わせ
最近読んだ本が面白いか面白くないか微妙なラインで、何となく感想を書きあぐねていたらそれが溜まっちゃったんでまとめてテキトーにレビューします。
メニューは下記の通りです。
『ポプラの秋』湯本香樹実_著
『漁港の肉子ちゃん』西加奈子_著
『月光スイッチ』橋本紡_著
『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』ジェーン・スー_著
--まとめ--
■『ポプラの秋』湯本香樹実_著
- 評価:ややおもしろい
主人公の女の子と、彼女が一時住んだアパートで大家をしている「おばあさん」の心のふれあいと、それを通して心を閉ざしかけた女の子が徐々に世界を受け入れていく様を描いた作品です。まさに世界を受け入れ始める部分の「そうやって言葉を外に向かって発するようになると、外側からも、いろいろなものが私に向かって流れ込んでき始めたように思う」という表現が非常に詩的だと思います。また、父親の死を上手く受け入れられない主人公の女の子に、『あの世への郵便配達』という奇妙な方法で光明を示すおばあさんの思いやり、あるいは強かさが非常に小気味良い感じです。
湯本香樹実氏の作品は『夏の庭』を読んだことがあるのですが、テーマとしては老人から人生を教わる(あるいは手助けされる)子供という構図が共通しています。同氏の経験の中に、底知れない何かを持っている老人というモチーフがあるであろうことを伺わせ、またそのモチーフが読者である自分の経験にも符合するところがあって、そういった点が同氏の作品に親近感を感じる一つの要因だと思います。本作ではおばあちゃんの登場シーンで、おばあちゃんの風貌や、おばあちゃんの暮らす部屋の様子が子供の目線からおどろおどろしく、神秘的に描かれている箇所が先述のモチーフのわかりやすい発露で、覚えのある人は面白いような懐かしいような気持ちになると思います。
老人から人生を教わる(あるいは手助けされる)子供
■『漁港の肉子ちゃん』西加奈子_著
- 評価:割とおもしろい
関西のおばちゃんのエッセンスを煮詰めたようなキャラクターの「肉子ちゃん」を母に持つ聡明な女の子「キクりん」の日常を描いた作品です。本作の特筆すべき表現技法として、動物や無機物などの人間以外のものを喋らせる、というのがあります。これは画期的な方法で、例えば水族館にいるペンギンのカンコちゃんが「皆殺しの日ぃ―!」と叫ぶ描写がありますが、この一つの印象深いセリフで、ペンギンの無慈悲な感じが非常に的確に表されていると思います。あるいはこの見解を持っている主人公のキクりんは、貧困と暑苦しい母親に、仄かな苛立ちと嫌悪を抱いているのですが、そんな彼女の、地に足つかない心の様子を表すという意味もあるのかもしれません。いずれにせよ作者の挑戦的な姿勢と瑞々しい感性が光る作品だと思います。
モノが喋ることによるダイナミックな情景描写
■『月光スイッチ』橋本紡_著
- 評価:普通
不倫をする主人公が、自身の行いの矛盾に苦しみ、押入れの中の暗闇でしか寝れなくなるというのはやや真に迫った、印象深い描写です。期間限定の不倫相手との新婚生活というギリギリの状況をつま先立ちで生きながら、年端もいかない女の子に暴行を働いたり、奥さんに見つかった修羅場では逆に電源オフしてしまったり、主人公に現実感や危機感が欠落しているように感じます。自分が夢見がちなタイプじゃないのであんまり共感できませんでした。
あと装丁がここ最近読んだ本の中でピカイチにかっこいいです。
装丁カッコイイ
『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』ジェーン・スー_著
- 評価:割とおもしろい
筆者が自分の劣等感を披露しながら自らが時に嫌悪し嘲笑した「女子性」を、心の底では渇望していたことを自覚的に描くエッセイです。幼少期の体験や先天的な気質から形成された劣等感のせいで、社会的に善とされている価値観に歯向かってしまうことは、一般的によくある心の反応だと思います。その気づきが自身の重荷失敗談を交えて面白おかしく紹介され、状況は違えども限りない共感を覚える作品です。
劣等感から画一的な既存の善の価値観に異を唱えたくなる
総論としては女性作家さんが熱かったです。