『東京ロンダリング』原田ひ香著
本読みました。
『東京ロンダリング』原田ひ香著
以下感想です。
■あらすじ
■おせっかい
■これから
--『東京ロンダリング』まとめ--
■あらすじ
夫と離婚し心に傷を負って、抜け殻のように事故物件に住む仕事をする主人公「りさ子」が、仕事上住むことになったマンションの大家や近隣住民の方との人間的つながりによって、自分の生活の中に自分の意思を取り戻していく話です。
■おせっかい
りさ子は、住んでいるアパートの大家「真鍋夫人」に、半ば強引に近所の定食屋「富士屋」の手伝いをさせられ、富士屋の息子との人間関係が始まります。真鍋夫人は強引に手伝いを頼むことからもわかる通り独善的な人物で、彼女が住む谷中の人々も、他人のプライベートを気にしない、田舎的な距離の近さを持った人たちとして描かれています。強引なおせっかいにも近すぎる人間関係にも嫌悪感を抱いたのですが、そもそも人間関係を始めようというときには何かそういった全くフラットな空間に生じる「ゆらぎ」のようなものが必要だとも思いました。まず知らない人に話しかけないと友達はできないし、純愛がストーカーまがいの行為から始まることだってあります。そのゆらぎを本書では飾ることなく醜くめんどくさいものとして描いていて、それがのちの人間関係やりさ子の「富士屋」への思い入れにつながっている点が面白いと思いました。
ストーカー行為から純愛が始まることもある
■これから
タワーマンションから眼下に広がる夕日に映える東京を見ながら、これからの決意をりさ子が語るシーンは美しく爽快感があるいいシーンです。ロンダリングの仕事をつづけながら「富士屋」の手伝いを続けるという彼女の判断は、彼女なりに地に足がついていて、また周りの人々とも近すぎず遠すぎず、しっくりきます。彼女が自分のロンダリングというキワモノの仕事を続けることを決意するこの肯定的なシーンは、彼女が自身の過去や現在のありようをも肯定的にとらえ始めていることを暗示しているように思います。
「私はここに残ってロンダリングを続けます」
亮がりさ子の顔を見た。
「つまんない能力だと思いますけど、それが私の力であるなら、いつかはロンダリングができなくなるかもしれないけど、できる間はそれを続けたい」
ロンダリングを肯定的にとらえられているのは、自身の有り様を肯定的にとらえられたことを表す
--『東京ロンダリング』まとめ--
裏表紙の紹介に「人間再生の物語」とありましたが、確かにその通りです。りさ子の内面的な心の動きを丁寧に追うことで彼女の心が再生される様がうまく描かれているいい作品です。
■関連する作品
人生の苦悩、傷心とそこからの回復を描いた話としては、「イン・ザ・プール」、「町長選挙」(ともに奥田英朗著)が面白いです。これは型破りな精神科医「伊良部」と患者が織りなす笑いあり涙ありのシリーズものなのですが、患者たちが人生の生きづらさに決着をつけて前に進んでいく様は本書のそれと同じように爽快で温かく、勇気づけられるものです。
ちなみに本ブログでも感想を述べています。