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『家日和』奥田英朗著

本読みました。

『家日和』奥田英朗

 

以下感想です。

■あらすじ

■みどころ

サニーデイ

■家においでよ

--『家日和』まとめ--

■関連する作品

 

■あらすじ

 

現代のありふれた家族で起きた日常の小さな事件を描いた短編集です。それなりの年数連れ添って気心知れたときに起こる夫婦間の愛をテーマとしているようです。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■みどころ

 

短編自体はそのテーマの特徴上似通っていますが、日常の小さな変化を登場人物の新内描写をふんだんに使って印象深く描いていて、飽きるということはありません。奥田英朗氏は、この何気ない日常を描くのが非常に巧みな作家だと思います。何気ない出来事にも登場人物の瑞々しい感想が添えられ、深い共感と膝を打つような驚きがあります。逆に困難な日常や退廃的な世界観を描くと作品が硬直することが多いと思います。その意味で奥田英朗氏はこの前紹介した重松清氏とは対照的な作家と言えます。奥田英朗氏のいい面が出ている作品としては、これから紹介する『家日和』、伊良部精神科医シリーズの『イン・ザ・プール』、『町長選挙』などが挙げられますし、逆に悪い面が出ている作品としては『ララピポ』が挙げられます。本短編集の中でも、『グレープフルーツ・モンスター』は奥田氏のダメな部分が出てしまっていて、ララピポ的な退廃的、背徳的で虚脱感のある作品に仕上がっています。逆にそれ以外の作品は粒揃いに面白いです。特に感動的な『サニーデイ』、『家においでよ』をこの後紹介します。

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奥田英朗氏は、日常の何気ない感情の機微を描くのが巧みな作家である

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

サニーデイ

 

オークションにはまった主婦「紀子」が、憂さ晴らし的に夫の老後の楽しみのレコードプレイヤーを出品しますが、実は夫や子供たちの愛が常にそこにあったことに気づき、慌ててレコードプレイヤーを買い戻す話です。最初に出品する商品は、子供が成長して家族で過ごす時間が減り、使うことのなくなった家族用のレジャー製品なのですが、このシチュエーションがすでに子供たちの巣立ちを意識させる哀愁漂う素晴らしい演出です。

 

家族水入らずの旅行なんてものは、きっとこの先ないのだろう。すでに子供たちは自分の世界を持っている。家族の全盛期が終わったのだ。

 

紀子はこの商品に続き、家の不用品を次々と出品し、オークションに生きがいめいたものまで感じ始めます。紀子は子供たちも夫もそんな自分にずっと無関心で冷淡だと思っていますが、実はインターネットに傾倒する彼女を夫は心配しており、子供たちは紀子の誕生日にサプライズで誕生日をプレゼントをくれます。感動モノとしては王道的な展開がこれほどまでに刺さるのは、作者の力量でしょう。先に述べた絶妙なシチュエーションもそうですが、日常の何気ない部分があまりにリアルで、そこに飽きずに没入できるので、そのあとのインパクトが(ありふれた展開でも)心を揺さぶります。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■家においでよ

 

妻「仁美」と些細なすれ違いで別居することになった夫「正春」が、家具をすべて仁美に持っていかれてしまい、家具を揃えていく中で、学生時代の音楽や映画、友人たちとの遊び場を家の中に作っていく話です。正春とその友人たちは面白がってどんどん正春の家を秘密基地の如くカスタマイズしていきますが、あまりに熱中しすぎて家に帰らなくなった友人が友人の妻と喧嘩してしまうところまできて、正春は我に返ります。この作品にはマイホームにかける妻と夫の思いという珍しいテーマがあり、作中人物の発言の形で趣旨が述べられています。

 

きっと巣作りっていうのは女のアイデンティティなんだろうな…(中略)…家に自分の遊び場が欲しければ、それなりの大きな家を建てられるとか、別荘を持てるとか、そういう甲斐性が求められるわけよ。建売住宅で男の王国は作れない。マイホームは女の城だ。

 

我に返った正春は、仁美に連絡を取り、週末に仁美が家に来ることになります。自分が作った独身時代の理想を体現したような部屋で、隠すものや掃除するところを考えあたふたするというオチで終わりです。

 

そうか、週末に来るのか―――。目を閉じて深呼吸する。しばらくして、跳ね起きた。隠すもの、なかったっけ。ある。アダルトDVDを5枚も買っていた。急いで寝室へ行き、ベッドの下から取り出し、捨てるのはもったいないので、中身だけパソコン用のディスク・ケースに紛れ込ませることにした。これでよし。…(中略)…まるで、独身時代に仁美をアパートに招き入れるときと同じ姿だった。

 

家庭を持つということは、安定や幸福というイメージのほかに息苦しさや束縛というイメージもありますが、そういう感覚が作者独特のおかしみをもって描かれています。いい大人が秘密基地やオーディオセットにはしゃいだり、彼女が来るからと深夜に大慌てで部屋を点検するさまは心温まるかわいらしい滑稽さがあります。そういう描写はしかしまた、若いころの人生にあるエネルギーや満たされなさと、大人になってからの人生にある充足感と閉塞感、そんなコインの両面のような感情が、地続きの人生であるという主張であるようにも感じられます。小説のお手本のようなエンタメと主張のバランスの塩梅と言えます。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

--『家日和』まとめ--

 

結婚して子供ができ、生活が安定してくる頃の30代から40代というのは、人生全体のスパンから考えてもかなりアンニュイな期間ではないかと思います。若いころのように勢いだけでガンガン行くだけではダメで、逆に遠慮して老け込んでしまってもダメで、微妙なバランス感覚が求められます。夫婦間の愛だってこのころに、若いころの燃えるような期間を過ぎて、世間や現実や肉体的衰えによってあり方の見直しを迫られるのだと思います。本書を読むと、悩んだりくよくよしたりするそんな冴えない平凡な人々にも、若いころの歴史があって、これからもいろんなことがあるということがわかって温かい気持ちになれます。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■関連する作品

 

紹介した作品はこちらです。

 

 

本記事で奥田英朗氏の悪い面が出ているという形で言及した作品は、『ララピポ』です。底辺社会の活写以上でも以下でもない、つまらない作品でした。

 

 

本記事で奥田英朗氏のいい面が出ているという形で言及した作品は、『イン・ザ・プール』、『町長選挙』の二つです。

 

 

 

伊良部精神科医シリーズは安定して面白いです。本ブログでも過去に紹介しています。

 

『イン・ザ・プール』奥田英朗著 - H * O * N

 

『町長選挙』奥田英郎著 - H * O * N

 

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