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『O・ヘンリ短編集(一)~(三)』O・ヘンリ著 感想

本読みました。

『O・ヘンリ短編集(一)~(三)』O・ヘンリ著

 

以下感想です。

■概要

■アラカルトの春

■賢者の贈り物

■失われた混合酒

--『O・ヘンリ短編集(一)~(三)』まとめ--

 

■概要

 

「アメリカの短編小説をヒューマナイズした」O・ヘンリの短編集です。O・ヘンリというと、古典、教養、文豪作品の色彩が強いと思いますが、しかし非常に読みやすく、エンタメとしての完成度が高いです。すれ違いによって滑稽な事態を迎える人々がいて、しかししばしばその裏側に真心や愛がある作品、ワクワクドキドキする性格の作品が多いです。日本人作家でいうと星新一的な位置づけなのではないかと思いますが、星新一よりも問題提起が少なく、陽気な印象です。心に残った短編をいくつか紹介します。

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ワクワクドキドキする作品

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■アラカルトの春

 

食堂の献立表をタイプする仕事をしている女性「サラー」が、愛する男性「ウォルター」から連絡をもらえない折、献立表に二人の思い出の花のタンポポが登場したことで、彼のことを思い出しメニューに男性の名前をタイプしてしまう話です。男性は食堂で献立表に彼女のタイプを見つけて彼女の居場所を知り、二人は会うことができるという話です。考え事をしながら書き物をしているときに、思考に筆が引きずられる現象から生まれた滑稽な出来事が、サラーの愛の発露であり、また二人が出会うための要素になっているのが非常に美しいです。作品の時期としては厳しい冬から春の先触れが見え始める時期で、サラーがウォルターを待ち焦がれついに会うことがかなう間の心情の変化を、献立表に載る季節の料理と、田舎の豊かな自然の情景になぞらえて瑞々しく表現する春らしい生命力と喜びにあふれた作品です。春のメニューの献立表を受け取った時のシーンから引用です。

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今日は、いつもより献立の変更が多かった。スープは一層あっさりしたものとなり、豚肉がアントレーから外され、わずかにロシア蕪入りの焼肉だけが顔を出していた。やわらかな春の気配が、メニュー全体に、にじみわたっていた。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■賢者の贈り物

 

お互いのクリスマスプレゼントのために、女性は自慢の美しい髪を売って男性の時計につけるための鎖を、男性は値打ち物の時計を売って髪飾りを買う話です。貧乏な男女が、お互いにプレゼントを贈りあうために、自分の最も大事なものを犠牲にして、相手の最も大事なもののためのプレゼントを買い、結局どちらのプレゼントも使うことができない滑稽な状況になってしまいますが、その滑稽な状況が、贈り物をするという行為の本質の、相手の喜びを思うということを際立たせています。ちなみに、表題の賢者とは、キリストが生まれたときに贈り物を持ってきた東方の賢者のことで、作品の最後に地の文でそれに関する解説があります。

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ここに私は、我が家の一番大事な宝物を、最も賢くない方法で、互いに犠牲にした、アパートに住む二人の愚かな幼稚な人たちの、なんの変哲もないお話を不十分ながら申し上げたわけである。だが、最後に一言、贈り物をするどんな人たちよりも、この二人こそ最も賢い人たちであったのだと、現代の賢明な人たちに向かって言っておきたい。贈り物をあげたりもらったりする人々の中で、この二人のような人たちこそ最も賢明なのである。どこにいようとも、彼らこそは「賢者」なのだ。彼らこそ東方の賢者なのだ。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

■失われた混合酒

 

一口飲むと勇気と野心がわいてきてどんな大それたことでもできる奇跡のカクテルを偶然手に入れた気の弱いはにかみ屋の青年が、カクテルの力を借りて好きな人に告白する話です。幻の美しい混合酒が好きな人に愛を告白することを決心させる衝動である恋心そのものの暗喩であるように思われます。これは短編の中でもごく短いものですが、短いからこそこの「幻の混合酒」というモチーフが強烈な印象になっていると思います。登場人物によって混合酒が言及されている箇所、実際に主人公の青年が混合酒を発見する個所から引用です。

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全くこの二本目の樽の中身ときたら、喧嘩でござれ、金でござれ、ぜいたくな暮らしでござれ、どれもこれも思うままという気分になれる霊験あらたかな蒸留酒なんだ。黄金色で、ガラスみたいに透きとおっているんだ。日が暮れてからでも、日の光を閉じ込めたみたいに光ってるんだ。

 

目盛りのついた容量三十二オンスの軽量コップがテーブルの上にのっていた。その底のほうに大匙二杯分の液体が残っていた―――金が採取できそうな深みに太陽を閉じ込めたように金色に輝く液体だった。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

--『O・ヘンリ短編集(一)~(三)』まとめ--

 

人生の美しい部分にフォーカスした陽気で幸せな話が多く、それでいてユーモアに終始する展開や意外な裏切りがあって、マンネリに陥らないようになっています。近年の作品で幸福というものをストレートに描いているものは少ない印象ですが、そういう意味ではこれは実に素朴で、表現的な小手先の技巧に走らない代わりに王道的なストーリーの妙があり、素晴らしい短編集だと思います。

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆