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『阿Q正伝』魯迅著 より『故郷』

本の感想

本読みました。

阿Q正伝魯迅著 より『故郷』

 

以下感想です。

■あらすじ

■本作における故郷とは

■故郷との別れ

■希望

--まとめ--

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■あらすじ

この話は、故郷の実家を引き払うために帰省した主人公[迅]が、子供のころの友人[閏土]と再会して、子供のころは純粋だった友人との友情が、「悲しむべき厚い壁」にさえぎられてしまったかのように感じ、やり場のない気持ちになる話です。


■本作における故郷とは

冒頭、故郷に到着して主人公が考えたことの記載は下記の通りです。

 

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だんだん故郷に近づくにつれて、空模様は暗く曇ってきて、冷たい風が船倉に吹き込み、ウーウーと鳴る。苫の隙間から外を眺めると、蒼く黄ばんだ空の下に、遠く近くいくつもさびしそうな寒村が横たわっていて、一点の活気もない。私の心は悲しく、うそ寒くなってくるのを禁じ得なかった…私の覚えている故郷は全くこんなものではなかった。私の故郷はもっとよかった。だが私はその美しいところを思い起こし、そのよいところを言い出そうとすると、どうもはっきりした映像はつかめず、言葉がないのである。

 

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物寂しい印象で、なにか思い出せない故郷の良い面があることを予感させます。

 

逆に、閏土との子供時代の思い出を回想した後、下記のような記載があります。

 

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いま母から彼の話を聞くと、私のこの子供の時の記憶が、突然そっくり稲妻の閃くように蘇ってきて、私の美しい故郷を見出したように思った。

 

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閏土との思い出が故郷の美しい面であったと分かります。以上より、本作における故郷は、幼いころの美しい記憶であるということができると思います。

 

本作にはこの故郷に関する美しい情景描写が多く出てきます。閏土との出会いと、閏土の語る世界はまさに非日常で、祝祭的です。いくつか記載を抜粋します。

 

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深い藍色の空にかかった一輪の黄金色のまんまるい月、下の方は海辺の砂浜で、そこには見渡す限り果てしない碧緑の西瓜、その間に一人の十一、二歳の少年がいる、首には銀の輪をかけ、手には一本の刺叉を握り、一匹の猹(チャー)に向かって懸命に突き刺す、その猹は身をかわして、反対に彼の股の下をくぐって逃げる

 

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私はこれまで世の中にこれほどいろいろ珍しいことがあるとは知らなかった。海辺にはこんなに沢山、五色の貝があるし、西瓜にはこんなに危険な経歴がある。私はこれまではただそれが果物屋の店で売られていることだけしか知らなかったのだ。

 

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どの記載も視覚的な情報(深い藍色の空、黄金色の月、五色の貝…)がふんだんに使用され、色とりどりの見目美しい印象が、閏土が迅の家を訪れた「新年の大祭の時期」と相まって、祭りの中のような神秘的な情景に完成されていると思います。


■故郷との別れ

故郷たる友情の終焉のシーンは先ほどの感性豊かな情景があるおかげで圧倒的な切なさです。

 

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「あ!閏土さん、---いらっしゃい……」私には続いていろんな話が、数珠のようにあとからあとからと湧き出してきそうに思われた、角鳥とかとび、魚とか、貝殻とか、猹とか、…だがまた何かにさえぎられるような気がして、ただ頭の中だけを旋回して、口には出てこなかった。彼は突っ立ったままである。顔にはうれしさとかなしみの表情を浮かべて、唇を動かすだけでかえって何も声に出ない。彼の態度はやがてつつましやかになって、はっきりといった、「旦那さま!……」私は寒気のするような気持になった。私は我々の間はもう何か悲しむべき厚い壁によって隔てられていることを知った。私は何も言えなかった。

 

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このあと閏土と迅は何度か雑談をしますが、その会話に関する描写は一切ありません。終盤に、故郷を船で離れていくとき、失われてしまった美しい故郷に関する考察があります。

 

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老屋は私からだんだん遠く離れていった。故郷の山や水も皆私からだんだん遠く離れていった。だが私はどんな名残惜しさも感じはしなかった。私はただ私のぐるりに見えない高い壁があって、私を取り巻いて孤独にし、私をとてもやり場のない気持ちにしているように思われた。あの西瓜畑の銀の首輪をかけた小さな英雄の影像は、私にはもとはとてもはっきりしたのだが、今では急にボンヤリしたものになってしまった。それがまた私を大変悲しませた。

 

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■希望

一連の出来事のあとに、宏児(迅の甥っ子)と水生(閏土の息子)が仲良くなったことについて、迅の希望が語られます。

 

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私は思った、自分はついに閏土とこれほどまでに隔たってしまった、だが自分たちの後輩はやっぱり一つにつながって、宏児は水生のことを考えているのではないかと。私は彼らが再び私のように、お互いに隔たりができないことを希望する…彼らには新しい生活がなければならない、それは我々のまだ経験したことのない生活が。

 

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船の行く先に見える景色が、かつて閏土が語った海辺の西瓜畑にそっくりに描写されていて、宏児と水生の行く先に、美しい故郷が存在することを祈る筆者の思いが良く表れています。

 

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ぼんやりした気持ちになっている私の眼の前に、一際海辺の碧緑色の砂地が展開してきた。上空の深い藍色の天には一輪の黄金色の円い月がかかっていた。

 

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--まとめ--

美しい故郷への愛情が、それを失われる様を描くことで深い印象で描かれていて、読者のなかのなつかしさを刺激し、あるいは故郷を何らかの形で失っている人にとってはその傷を慰めてくれるであろう、素晴らしい作品だと思います。

 


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