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『変身』カフカ著

■要するに

ある朝目覚めると虫になっていた男と、その家族の苦悩、男の死までを描いた作品です。この作品を読む前に著者カフカについて、『絶望名人カフカの人生論』という本を読んで、カフカという人のおおざっぱな特徴は前情報として知っていました。

 

『絶望名人カフカの人生論』カフカ著 頭木弘樹編訳 - H * O * N

 

この本によると、カフカはネガティブすぎて病気になったときに生きる苦しみから逃れられると言って狂喜するほどの人物だったとのことでしたが、本作にもカフカのそんなネガティブな一面がいかんなく発揮されていて、数々の不快さの小ネタが本作のいいアクセントになっていると思います。

 

そして意外にも、割と読みやすかったです。読むまでは難解で重厚な印象がありましたが、割とすぐに作品の世界に入って行けて、最後まで機嫌よく読むことができました。

 

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割と読みやすい

 

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『逮捕されるまで』市橋達也著

■要するに

この本は殺人犯の市橋達也氏が、犯罪を犯してから逮捕されるまでの2年7か月の逃亡生活を述べた作品です。飾らない言葉で、起こった事実に基づいた事柄のみを淡々と叙述していますが、全国を転々とする中で氏が体験した、沖縄でのサバイバル生活、大阪での肉体労働の日々、そう言った特異な体験が、本書を特異な作品にしていると思います。

 

平易な語り口で特異な体験を語る特異な作品

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スタインベック『蛇』解説

下記のサイト(pdf)を参考にスタインベックの『蛇』について解説します。

 

ジョン・スタインベックの『蛇』について_中村正生 - 長崎大学学術研究成果リポジトリ

 

■あらすじ

 

この作品はフィリップス博士の研究所にやってきた女が、ガラガラヘビを売ってほしい、えさを食べるところを見たいという奇妙な要求をする話です。蛇が餌を食べるのを見る女は、蛇と二重写しのような所作を見せ始め、蛇が顎を外して口を開けて獲物を飲み込むとき、博士は恐怖で女の顔を見ることができずに目を背けます。女はまた餌をやりに来ると言い残したきり、二度と戻ってこなかった、という筋書きになっています。

 

蛇を買いたいという女

蛇が餌を食べているのを見ながら、不気味に蛇と二重写しの所作をする女

女の得体の知れなさが不気味

 

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スタインベック『菊』

 

下記の文献を参考にスタインベックの『菊』を解説します。

冬の花 - 滋賀大学学術情報リポジトリ

スタインベックの「菊」 ―或るちぐはぐな夫婦の物語― - 長崎大学学術研究成果リポジトリ

■あらすじ

中堅農場経営者ヘンリーの妻として菊を育てながら平和な毎日を送るイライザが、庭で仕事をしていると、旅をしながら金物の修理をしているその日暮らしの鋳掛屋がやってきて「何か仕事はないか」と言います。相手にせずやり過ごそうとするイライザでしたが、鋳掛屋が菊のことに話題を向けると途端に心を開き、鋳掛屋の知り合いに渡すために菊の新芽を持たせてやり、さらに家から仕事を探してきてやります。菊の行く末に期待を寄せるイライザでしたが、のちに鋳掛屋が渡してやった菊を道端に捨てていることに気づき絶望する話です。

菊を育てながら平和に暮らすイライザ

鋳掛屋と出会い菊を託し、菊の行く末に期待寄せる

菊が道端に捨てられており絶望

 

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【告知】ジョン・スタインベックの短編の解説やります

拝啓、秋雨の候、読者の皆様におかれましては、ますますご隆盛のこととお喜び申し上げます。掲題の通り告知いたします。

■解説とは

その作品について書かれた論文を参考に、作品の伏線や、ただ読むだけではわかりにくい意味をわかりやすくまとめていきます。論文はだいたい1本~3本ほどを参考文献として使用しています。個人的に、文豪の作品を読むときは読後によく関連する論文を読んで、作品の意味や主張の理解を深めるということをやっていましたが、これが意外と面白いです。文豪の作品をただ漫然と読んでしまうと、文章の意味としては判るんだけども作品全体として何が言いたいの?ということになってしまいがちなのですが、読後に論文を読むことは、そういう疑問にある程度の正解を与えることができます。

 

文豪の作品を読みたいけど、意味が分からなくて退屈な思いをしたくない…

文豪の作品を読んでるところを、友人やあのコに見てもらいたいし、作品の主張や意味を解説してドヤりたい

 

そんな悩み・ご要望をお持ちの読書家の方にオススメです。

 

論文を参考に作品を解説します

 

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【続】『「友達いない」は"恥ずかしい"のか』著:武長脩行

 

■要するに

この本は、今年の六月ぐらいに読んで当ブログで感想を書いた本です。その時の記事はこれ↓で、内容をざっくりいうと、

『「友達いない」は"恥ずかしい"のか』著:武長脩行 - H * O * N

・「孤独」という状態は、社会から個人へのネガティブな働きかけの一形態である

・何らかの行動を起こした行為主体に対して、社会が甲斐であると判断した場合、その行為主体を排斥するために孤独という措置がとられる

・孤独という状態を経験することは、何か行動を起こすときに、そのリスクを正しく見積もることに資する

・多くの人は孤独の恐怖を過大評価して、多くのことを諦めて生きているように見える

こんな感じです。そして別の機会に「友達いない、は恥ずかしいのか」という、本書のタイトルにして本書では明確な答えが与えられていない問いを考察すると言って締めくくられています。今回はこっちの考察をしてみたいと思います。

 

友達いない、は恥ずかしいのか

 

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『冷血』カポーティ著、佐々田雅子訳

■要するに

実際にあった一家四人の惨殺事件を題材にした作品です。徹底した取材と膨大な資料を基に物語を構成するニュージャーナリズムと呼ばれる手法で書かれた、筆者曰くノンフィクション・ノヴェルであるところの本書は、実話であるが故の荒唐無稽さ、些末さといったものが実話としての重みをもって読者に伝わる、なかなか読み応えのある作品だと思います。特に訳者があとがきにて指摘している通り、犯人や被害者、捜査官、隣人など、ほとんどすべての登場人物の家族との絆に意図的に焦点を当てることで、物語に非常な厚みが、少なくとも多大なページ数を費やしただけの厚みが出ていると思います。冒頭では被害者の家族の生活が事細かに描かれ、彼らの突然の死と、のちに語られる事件の克明な全容をより一層印象的にすることに成功しています。

 

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長いけど実話故の読み応え

 

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