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『マーク・トウェイン短編集』古沢安二郎訳

最近海外文学の短編集に凝ってまして、この本はその一環として読みました。マーク・トウェインと言えばトム・ソーヤーの冒険が有名ですが、私は過去に一度読もうとして挫折しました。平たく言うと無駄に長かったからだと思います。その点これは短編集なので、一つ一つの話の切れ目が明確なのでダラダラ長くなることがなく、しかもトム・ソーヤーの冒険にみられるようなユーモアや滑稽さで暗示される真理の描写が随所にあって非常に機嫌よく読むことができました。

特に面白かったのは、『私が農業新聞をどんなふうに編集したか』『エスキモー娘のロマンス』の二編です。

 

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『読書は一冊のノートにまとめなさい』奥野宣之著

本書は著者の前作、『情報は一冊のノートにまとめなさい』がベストセラーになったことを踏まえて書かれた続編で、読書ノートの作成を奨励しています。本書の真価は1冊のノートにまとめる方法論ではなく、読書家の同氏が自身の読書の仕方を述べたところだと思いました。

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誰に育ててもらってると思ってるんだ

先日、興味深いまとめを見ました。

子供の頃親と喧嘩してると良く「誰に食わせてもらってんだ!」とか「誰に学費払ってもらってんだ」言われたけどさ - アルファルファモザイク

 

■あらすじ

 

ざっくりいうと、タイトルの言葉を親から投げかけられて嫌な思いがしたし、親としてこれは言っちゃいけないだろうという1にみんなが同意する話です。こういう言い方で議論を終わらせてしまうと子供の方に納得がなく、親に対する不信感が募ると思いますが、タイトルの発言はどういう気持ちで発されるのでしょうか。そこのところを考えてみようと思います。

 

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おおかみこどもの雨と雪

この作品は、細田守監督の作品で、彼の時系列から言えば『サマーウォーズ』と『バケモノの子』の間に発表された作品です。それらの作品と比べると本作は細田守氏の良さがしっかり出ているいい作品であると思います。私の思う彼の良さとは、彼の描く家族観、家族愛に対する彼の見方が非常に洗練されている点で、例えばそれはバケモノの子における熊鉄と九太の関係、多々良、百秋坊と九太の関係にその片鱗を見て取ることができると思いますが、本作はそのままド直球に家族愛を描いた作品ですので、上記のような所感になるのも当然だと思います。

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細田守氏の優しい家族観がよく出ているいい作品

 

  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

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五月の処刑

ふと気がつくと、どうやら実家の庭に立っていた。季節は春から夏の間、5月頃かと思われ、晴れた空から明るい日差しが降り注いでいて、眩しさに目を細めて、あたりを見回した。庭の真ん中には何人かの兵士がいる。みんな薄い緑の軍服を着ていて、雑兵は黙って直立して、随分と若い将校、彼の帽子は他の兵士と違った形をしていたから、私はきっと彼の地位が高いと思ったし、事実彼がその場を取り仕切っているように見えた、が、「あなたは反逆の容疑で処刑されることになりました」と告げた。彼はその詳細を、私の高校の同学が同様の罪で処断されたこと、同学を捜査する中で私が高校の時に書いた何かの文書が目に止まったこと、などで説明した。彼は続いて束ねられた紙を差し出して、受け取ってみると、私の同学が書いたと思しき反戦ビラや、声明文のような書類の中に、なるほど私が高校の時に書いた文章が混ざっている。こんな形で取り沙汰されるとは知る由もなく、自由にのびのびと、極めて無責任に書かれている。私は文章の取り合わせがやや間抜けであると感じ、また先の宣告の衝撃に数歩後ずさり、ガレージの柱に寄りかかってかろうじて立っていた。「処刑は銃殺にて行います。バルカンで一瞬だよ」と若い将校が宥めるように言った。

 

私はどうすることもできずに立ったまま、後ずさった時の衝撃が、まず脱力感のような悲しみへ、次いで痛みに対する恐怖と動揺へと、変わっていくのを感じた。一呼吸遅れて、父母や家族、恋人との別れが避け難く迫っていることの無念が私を襲った。母は家族を、とりわけ私と私の兄弟を愛しているから、さぞ悲しませてしまうだろう。彼女とは結婚の約束をしていたが、約束を破ることになってしまった。実家に帰った折に両親と会うこと、恋が終わっても一緒にいること、そんな当たり前で平凡で、当然過ごすものと思われた日常が、にわかに懐かしく輝きだし、それがもう手に入らないと思うと、悔しさで一杯になった。

 

私は彼らに手紙を書かないといけない、と思ったが、処刑の前に手紙を書く十分な時間はもらえないだろう。みんなに一言言うだけで精一杯に違いない。とにかく時間を作らなければ、そう思い、「トイレに行かせてくれ」と言った。若い将校はこちらを見ずに、タバコに火をつけながら、「いいよ」と短く答えた。

 

どうやって庭からトイレまで移動したかは覚えていないが、私は実家のトイレに入っていた。生まれた時から見るとはなく見た青いタイル張りの床、小さい窓、狭い個室にひとつきり置かれた便器に腰掛けている。床を見ると、お菓子の包み紙が散らばっている。きっとこれは父の仕業で、再三注意しているのに、また今度会ったときに注意しなければ…。

 

『心が叫びたがってるんだ』

拝啓、読者諸賢におかれましては、性の喜びをお知り遊ばされていることと、御恨み申し上げます。

 

昨日実写公開記念として地上波初放送された上記作品は、アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(略称「あの花」)のスタッフが再集結して製作されたものです。「あの花」は魅力的なキャラクターと神秘的なシナリオ、美麗な映像が魅力の良作ですが、やはり本作も実績あるスタッフによる安定感が感じられる素晴らしい出来でした。

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